2019年12月30日月曜日

Forth Chapter


Forth Chapter


今でもサロンに初めて立たせてもらった時のことを思い出す。


ピリッとした緊張感のあるフロア。
当たり前に飛び交う英語。
何枚にも積み重ねられたホイルで覆われたカラーのお客。
ブローブラシだけで作られたアジア人美容師には、
再現することが出来ないブロードライ
極限にシンプルに作られたショートヘアー。…。


刺激を受けたとかそんな安っぽい言葉で
形容することの出来ない衝撃を受けた。


”明日からスタイリストとして働きなさい”って
Bossからのお言葉でフロアに立たせてもらうことになった。
揃いのユニホームがない上、自信の無い佇まい
そして、フロアに一人しかいないアジア人。
どう考えてもどこから見ても”ルーキー”な自分。


そして、頭をずっと過ぎる不安が
やはり的中してしまった…。


初めてのお客様。
Blow&Dryでの来客。
そして求めるのはストレートブロードライ。
はっきり言えば基本中の基本だし
自分の得意分野って思ったのも束の間。


アジア人であればしっかりとボリュームが、自然に出るはずなのに
全くもってトップにもボリュームも無くペタっとのっぺりした状態。
周りもその様子を察して途中からリカバリーという形で
やり直しでブロードライをしてもらう始末。


『アシスタントからやり直させてください』


ただ身勝手な野心でサロンに入ってきて
何のサロンの戦力にもならない日本人に対して
本来であれば退社させた方がいいのは明確にもかかわらず


”0から教えてあげるから頑張りなさい”











技術的なものに関しては、
またどこかで書こうと思うので割愛するけど


そこからの毎日は、
0から1にって一歩ずつ1歩ずつを繰り返す毎日だった。
まずは、基本的なブロードライ。
アイロンで作るスタイルでは無い、
ドライヤー、ブローブラシ、カーラー、スモールピン。
髪の毛の質から何もかも違うウエスタンへのアプローチは、
衝撃の連続であった。ここまでしないと満足度が上がらない。
そして、細い髪の毛でもあるに関わらず
しっかりとツヤや大きくボリュームのある動きを短時間に作り上げる。
ブロードライだけでも日本と違う美容の考えと技術がそこにはあった。


こちらのサロンには、
自社でアカデミーを開講しているサロンは多い。
日本の美容学校に位置づけられているけど大きな違いと言えば
やはり実践的であること。
そして、
しっかりとスタイリスト・カラーリストそれに加えて
はじめから教育者になるための勉強しかしないエデュケーターと
日本の卒業してから美容師をスタートではなく
ゴールがはっきりとあり卒業してからは、
しっかりとフロアーに立てる日本のJr.Stylistのような
仕事ができる状態で卒業することが出来る。

また、自社の独自色を真っ新な状態の生徒に教えることで
統一した基準・テクニックをブランド価値として
お客様に提供できるのも魅力の一つである。


週3回はサロンで1年目のアシスタントのような仕事。
残りの3日はアカデみーで朝から夜までずっと技術の習得っていう日々が続いた。
カラーリストよりもカッターに興味もあったので
ベーシックなカットから最後の仕上げまで
今自分にある既成概念をまずは0にして一歩ずつ積み上げる日々だった。


サロンワークではじめに正式に採用されたブランチは、
ロンドン市民が愛する公園の目の前にある
世界各国の要人が宿泊する高級ホテルに入るブランチだった。
サロンの中でもTopに位置づけされるブランチだったので
当然ながら思うのは、


”どうして、こんな自分がここに配属になったのか?”って疑問だった。


ここでの経験は、自分のイギリス生活の価値観に大きくつながる出来事だった。


階級社会の名残があるイギリス。
やはり場所柄もあるので来るお客様はそのような
いわゆる”アッパークラス”に属する方々ばかりで
サロンに来るのにも関わらず、
運転手・お手伝いを伴ってくるのは当たり前。
どの角度から見てもお金持ちって言葉が安っぽく聞こえるほどに
いわゆるVIPクラスの人間が毎日のように来店してきていた。


そこでのサロンワークは、
今までとは全く別物であった。


自分の持っているおもてなし全てを注ぎ込んでも
到底及ばないほどに
ここに来る人は、
そんなチープなおもてなしなど望んでいない。
技術面でももちろんであるが
とにかく最高級なものしか望んでいない。


そんなブランチで
シャンプーマンからスタートした自分に一番の衝撃的だったのは、
お年を召された貴婦人って言葉がぴったりのお客様をシャンプーした時だった。


拙い英語での接客でシャンプーブースに案内した時には、
全身の汗腺から汗が出てきてるかの如く緊張していた。
その人が出すオーラにやられてしまった。


日本人のシャンプーは丁寧で好評である。
1年目のほぼほぼをシャンプー練習でテストを落ち続けた
シャンプーマンの全力のシャンプーをどう評価されるのかって
思いながらシャンプーを施した。


シャンプーの間、何も喋らないお客様。
沈黙の空間で必死な自分。
そのコントラストが何故か可笑しかった。

そして、シャンプー後に

”これからもっともっと頑張ってください”って
握られた手の中に入っていたのは£50(約7000円)を
渡してくれた。いわゆるチップってやつだった。


後からこのことをスタッフに話すと

”昔からずっと来てくれているお客様で
みんなルーキの時に苦労している部分を知っているから
応援の意味でシャンプーマンにスタイリストよりも高いチップを渡している”


”シャンプーのチップで大金をもらった”ってよりも
”初めてこのロンドンで自分の仕事を評価してもらったこと”
そして
誰かに応援されることって本当に嬉しいことだと思えた。
やっと誰かの生活の歯車になれたこと。それが、本当に嬉しかった。


2ヶ月ほどでこのブランチを卒業することになった。
後から知ったのは、Bossからの計らいで
ルーキーのアシスタントは、ここでスタートして
ホスピタリティーであったり接客面を鍛える意味で配属されること。


そして、
ステップアップとしてアカデミーも卒業して
やっとの思いでスタイリストとしては一番したのランクだけど
デビューすることも出来た。



スタイリストとして配属されたのは、
St Paul cathedralの膝下に構えるブランチだった。








金融街のあるBankに近いため
来店するお客様もビジネスマンを始めいわゆるスーツ組なお客様が多かった。
特に、日本と違って休みの日に来店とかでは無くって
ランチタイムであったり休憩時間とか商談前にとか
予定の合間、合間に来るお客様が多くて
スタイルはもちろんだけど”時間の制約”を求められる仕事だった。


また、ここでロンドンで美容師として働く基礎を2人の同僚に叩き込まれた。


海外の現地サロンで働く美容師の生命線っていうのは、
あまり大きな言葉をいえる立場ではないけど、
確実に繰り返すようだけど”ブロー&ドライ”である。
この、技術が出来ないと話にもならない。
アイロンに頼らないツヤ・ボリューム感・カール。
そして、崩れない上にお客様が手を入れれば再現できる
ブロードライを個人的には大袈裟だけど
”Queen of Blow Dry”(ブロードライの女王”)って
呼んでいる同僚に0から教えてもらった。


ドライヤー前につけるプロダクト
毛質別のアプローチ
テンションの掛け方
時短でどれだけ綺麗に仕上げるのかetc


この同僚がいなければ、
僕の今最大限に得意なブロードライの技術はなかっただろう。
日本の技術では、外国人のお客様が求めるクオリティーを
カバーできないんだなって改めて思い知らされた。


何を評価してもらったのかは、分からないけど
このブランチに配属されて
徐々に仕事を増やしてもらえるようになってきた。
シャンプーマンから始まり、
忙しいカラーリスト、スタイリストのブロードライの仕上げなど
少しずつできる仕事も増えていった。












ただ、当然自分にはまだ指名のお客様などおらず
しばらくはアシスタントと変わらないような日々だった。

しかし、チャンスは突然に現れるようで
ロンドンに来て正規のお金を取る形で自分一人で入客させてもらうことになった。
Walk In。いわゆる飛び込みのお客様。指名ではない。

胸の下まであるかなり長いロングヘアー。
手入れもされていないハイトーン。
そして、ナチュラルにうねる髪の毛。

”鎖骨まで切ってヘルシールックになりたい!”

日本人が対応する技術の提供ではなく
ロンドンで働く一人のスタイリストとしての技術を
絶対に喜んでもらえるように指名につながるように
施術をさせてもらった。

何も話さない・話せない美容師とお客様に
流れる雰囲気は他のスタッフからも
”あのルーキー大丈夫か”って思われるほどだった。

そんな時間は、
体感ではものすごく長く感じるけど45分の既定の時間通り
あっという間に終わった。

カールヘアーをしっかりとストレートに伸ばす
そんな単純な仕上げだけど
初めて自分がロンドンに来て味わった挫折につながった
ストレートブローで仕上げた。

そして、最後に鏡で緊張しながら見せた後ろ姿に


”Good Job!I love it”


これが、実質的な意味で
ロンドンで働く美容師としての第一歩に
ようやくたどり着くことが出来た。




お客様をお見送り
バックルームに戻るといつも職人気質な堅物のマネージャーで
自分の大尊敬するスタイリストに



”Well done!”

(よくやった!









小野寺奨 個人HP  ただの表現の場所 LINE:@tsutomu1201jp mail:tsutomu1201jp@gmail.com

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